雪降る季節の伝説。
雪女を題材にした切ない物語。 再び目を覚ました俺。 そこにいた一人の女性。 それは男の中で見た男の女房であった。 五 俺は目を覚ました。 どうやら意識がなくなっていたようだ。 何か不思議な夢を見ていたようだが、よく思い出せなかった。 まるで誰かの中に入っていたような・・・。 少し記憶をたどるが、やはり思い出せなかった。 それよりも、周りの状況が変わってるのが気になった。 ここは洞窟だろうか。 岩に囲まれた空間は、吹雪の音も聞こえず静かであった。 そして横たわってるところ。 それは女性の膝枕であった。 俺を覗き込むその顔は、人間離れを感じさせる美しさがあった。 それは雪女を思わせる。 この女性が俺をここに運んでくれたのだろうか。 俺は再び眠気が襲ってくるのを感じた。 途切れかける意識。 その時その女性の声がした。 「あんた・・・」 美しい声であった。 そして悲しい響きがあった。 「会いたかった」 それに答える声がした。 俺の声である。 しかし俺の言葉ではなかった。 俺の意志とは関係なく動いた口。 しかしその言葉に抵抗を感じなかった。 その時すべてを悟ったのだ。 思い出す夢。 男の中で過ごした日々。 そして今言葉を発したのは、俺の中にいるその男。 目の前の女性はこの男の女房だ。 「恨んでいるのだろうな」 男は俺の口で、再び言葉を発した。 「ええ・・・」 美しい女性は短く答える。 その声は憎しみがこもっているのか、それとも悲しみがこもっているのか判らない。 「当然だ。お前を捨てたのだからな」 続ける男。 「ええ」 答える女性。 「何年も過ごしたお前に恐怖したんだから」 「ええ」 それから起きる沈黙。 長く感じる時間。 見つめ合う二人。 二人の気持ちが俺には判った。 恐怖に駆られて逃げ出した男。 そして再び家に帰ったときには、もう女房の姿はなかった。 一瞬の恐怖は、永遠の後悔へと繋がる。 しかし女房を探しに行く勇気もなかった。 自分の犯した行為は、男に重い枷となってつきまとったのだ。 男に捨てられた女。 子供が出来ると元々別れるはずであった。 しかし、男の愛情も信じていた。 女に生まれた感情は恨みなのか、悲しみなのか。 人の一生が一瞬でしかない女にとって、男が死んでからもずっと、癒されない想いを背負っていたのだろうか。 そしてこの男も、死んでからも後悔が続いていたのか。 再び声を発したのは男からであった。 「お前に言いたいことがあった」 女を真剣に見つめる。 「すまなかった・・・そして、今でもお前を愛している」 女の目からほろほろと、涙がこぼれていた。 それはまるで雪の結晶のようにきらめいていた。 「私を捨てた憎い人。恨んでも恨みきれない」 女は泣きながら呟く。 「なのに・・・あんたを愛する気持ちは消せない」 女は俺を抱き寄せるように身体を寄せてきた。 寄せる唇。 冷たいその肌は、しかしとても心地よかった。 そして離れる二人。 女は優しさを込めた瞳で、俺を見つめながら口を開いた。 「このままではあんたはもうすぐ死にます」 痛みも感じなくなっていたが、傷と寒さでそれも仕方がない。 女の言葉に俺はそれほどの驚きも感じなかった。 女は言葉を続けた。 「でも死なせやしない」 女は再び俺を抱き寄せる。 「もう二度と、あんたと離れません」 俺はその言葉を最後に、意識が途絶えたのだった。 続く
by junnohp
| 2006-01-07 00:27
| Nobel
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